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ルイヴィトンマルチカラーコピー編集

「———近付くなって、駄目ですよ橙子さん。だって僕はその人と、二年も前に知り合ってるんですから」  けれどその事実がどんな意味合いを持つものなのか、自分に分かるはずがなかった。そもそもあの時自分を助けてくれたのが印画紙に写っている人物だったかも定かではない。  僕の中ではあの写真の人物は不確かで、熱に冒された橙子さんの話もパズルのピースみたいにバラバラだった。  不確かな物が不確かな言葉を呼び出した。ただそれだけの事なのに、さっきまでの平穏な空気が薄れて酸欠になりそうだ。  言葉にできない不安だけが、背中を震わせていた。          /6       (螺旋矛盾、2)  一夜明けて十一月八日の昼。  天気は昨日とさして変わらない曇り模様で、電灯のない事務所は廃墟みたいに薄暗かった。  この事務所は僕と橙子さんだけでは広すぎる。机だってちゃんと十人分は並べられているし、来客を接待するためのソファーだってある。あいにく床はコンクリート打ちっ放しという荒々しさで、壁には壁紙さえ張っていないが、人数さえ揃えばそれなりの職場に見えるはずだ。  なのに、今ここには自分を含めて三人しかいない。  窓際にある所長の机に、橙子さんの姿はない。昨日の薬が効いたのか、今朝になって風邪が治ると何処かに出かけてしまったからだ。  所長のいない事務所の中、僕は来月から始まる美術展の会場作りの、資材の発注や価格調べなんかをやっていた。橙子さんの設計図を片手に、工程に見合うような資材を安価に購入する為である。あの人は出来ればいい、という人なので、こういった面倒で地味な努力はしてくれない。結果、社員である僕がやるしかない訳だ。
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